今はまだ僕たちは旅の途中だと

まったく気は進まなかったけれど、誕生日の人のリクエストであるから仕方がないと思い中島みゆき縛りカラオケに行った。私はいま中島みゆき、ちょっとしんどいなというか、カラオケ自体どうなのと思ったが仕方ない。そういえばかつて母が「いまお母さん小説はまったく読みたくない、中島みゆきもノーサンキュー」と言っていた時期があった。私が中学生くらいのころだから、そのとき母はいまの私と同じくらいの年齢だった。みゆきさんの歌、聴けないなんてことあるかなと思った。いつも思うことをまた思う。私はなんて愚かだったんだろう。お母さん、つらかったね。言わなかったけれどもしそれを伝えたとしたらきっと「いまならわかーるー」って笑うんだろう母は。お母さん、出来損ないの娘でごめんね。ごめんなさい。
「永遠の嘘をついてくれは歌える?」と訊かれたので「歌えない」と答える。歌えないどころか何のアルバムに入っていたかも思い出せない。歌い出しも思い出せない。「狼になりたいは?」こっちは歌える。申し訳程度にギターをつけることもできる。でも「歌えない」と答える。だってこれなんか照れるじゃない人前で歌う歌じゃないよ。
一曲歌ったらエンジンがかかった。まったく声は出なかったけれどまあいいや、母だし。
前奏を聴くだけで涙ぐみそうになる曲が何曲もあった。何がということもなく、単純に、私は幼い頃から中島みゆきだけを聴いて育ったのだ。母と弟との狭い狭い世界の中で。
永遠の嘘をついてくれ。私が歌えないので母が歌った。そしてなぜか、途中で二人とも泣いてしまった。これまでいちども良い曲だとも好きだとも思ったことがなかった。私はほんとうに、いつも何にもわかっていないんだ。


「お母さん、泣いたね」
「泣いた」
「わたし知らなかったよ、こんなに良い曲だって知らなかった」
「お母さんこの曲好きなんだよね」
「うん、それも知らなかった」
「泣いたね」
「お母さん」
「うん」
「出会わなければよかった人などないと…」
「うん」
「でもこれ永遠の」
「うん」
「嘘なんだよね…」←泣いている
「すごいね」
「うん、すごい」


Mom, Happy birthday and I love you.
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