何ひとつ夢が叶わなかった人。

それでね、いつもより数分早く職場を出られたおかげで受付時間内に着いてしまった私のあとにもうお一人お客さまがみえてしまって、先生はだから「あんた一回出て続きはあとでやろう」って後回しにしてくれたわけ。次の人が待っていない状態でゆっくり話していいよってしてくれたわけ。そんなことあるのっていうかそんなことあるの? あるの。


それで私は外に出て次の人というか前の人というかその人が終わるまで日記を書いたりして、それで、また中に入って床で寝る話なんかをして、そうしたら先生が「わかった」って言ったんです。「わかったぞ」って。私はそのとき、床で寝られて嬉しかったこと、いままで私に努力ができないとか何をやってもダメとか恵まれているのに贅沢言いやがってとか散々いろいろ非難してきた方々はね、悔しかったらいちど床で寝てみたらいいんですとかなんとか一生懸命話していて、だから一瞬ぽかんとして「なんのことですか」って聞き返した。「あんた何ひとつ夢が叶わなかった人なんだな」「え」「何ひとつ夢が叶わなかったんだ」「…」「よくわかった」私はもっと努力の話がしたかったけれど仕方ないから言った。「そうですよ」って言った。その瞬間涙がばらばらと溢れそうになったけれどこらえた。「夢が叶わなかったんだな」床で寝る話もやめた。「そうですよ先生、そしてね、なんだってできたんです。私の未来は夢でいっぱいだったんです」でも何ひとつ叶わなかった。どんなつまらないこともです。だからいま、まさかこんなことがと思いながら、床で寝られて嬉しいんです。三日で挫折すると思った。それは本当は挫折ですらなくて単に順番の問題で、すぐにでもお布団は買おうと思ってた。でも思いのほか身体が強靭で寝ることができてしまったために引っ込みがつかなくなった。もう五週間です。お布団はそこにあるけれど、気持ちが弱ったときに魔が差して買ってしまったお布団があるけれど、使わない。あるのに使わない。途中で目的が変わった。体調がどうでもメンタルがどうでも絶対に寝る。寝てやる。ねえ先生、人間にはどんなくだらないことでもいい、成功体験が必要なんです。


「誰に言われたんだ」「?」「努力ができないとかなんだとか、いったい誰に言われたんだ」「えーと、両親?」「親か」「すみません違います誰にも言われませんでした。自分自身です」「なんだって?」「自分が言ったんです」「つらいな」「つらいですよ」「いつからだ」「…年」「十年か」「二十年」「つらいか」「つらいです」


残りはぜんぶおまけの一日。頑張ったがダメ。サンフランシスコ。
虚構です。おやすみ。
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