いまの私。顔。

イメージとか何もない、どんな顔したらいいの? 大丈夫だよ言う通りにしていれば。任せておけば大丈夫。そう、そういうものなのね。


15分ほど美容院に寄って、アイロンで髪を真っ直ぐにしてもらう。雨が降っていなくてよかった。七年前、こんな写真を撮れる人がいるのかと思った。この人をこんな風に撮れるの、この人の内面を写せるの、冗談抜きに私だけだと思ってた。オーディションや何かそういうときに使う写真、単なるスナップ、いつも私が撮っていた。通ったこともあるし、通らなかったこともある。探せばいまもデータがあるはず。


住む世界が違い過ぎるからまさか、私も撮っていただけるなんて。それでも淡々とお稽古を続けて、もしかしてこれならと思えるようになったのはここ数年、つい最近のこと。


「ベストショットを送ります、先生には内密に」


ドキドキした。開いてみて「あー」と思った。これ私? 私こんな風にみえてるの? これがベスト? そうなの? これはナッツもリターンするわ。


カメラに向かって身体をぐっとねじって斜めに左右から、あと正面。何枚撮っていただいただろうか。私はものすごく緊張して、笑ったりこわばったりしていた。いま私の、夢がひとつ叶いつつあるんだと思った。夢にまでみた、夢が、こんなんじゃ、こんな、ちょっと待って、これ違うこんなんじゃない。じゃあ反対向きにと言われて向きを変えた直後、いちど完全に無心になった。あ、これだと思った。いま私たぶん普段の顔してる。そう思うか思わないかのうちにシャッターが切られ、また不自然に、意識が靄に包まれたみたいになった。


送っていただいたお写真はそのときのものだった。「ベストショットを送ります」そうこのとき、私は確かに私の顔をした。これが私の顔なんだ。なぜわかるんだろう。16人も撮影して、次から次へと撮ってでも、その瞬間がちゃんとわかるんだ。これがプロなんだ。


このお写真は採用されないと思う。笑っていないから。私の迷いとかなんかグラグラしたところ、どこにも行けないところ、頭の中にあるものがぜんぶ写ってる。だけどプロフィールに使える表情じゃない。


「二年にいちどしかないのか、みたかった」「三本入ってたんだよ」撮影が、それなのに私のバレエを、みたかったってこの人は。


もしかしたら一ヶ月後あるいは三ヶ月後、一年後、どんな顔をしているだろうか。どんな顔でいたいだろうか。そのために何ができるだろうか。夢はまだ、叶ったわけじゃないよ。